緋文字
寒雪

今おれは
枯れ草がやけに目にしみる
木枯らし吹く荒野で
始まりを待っている


今おれは
普段怠けてばかりで
ちっとも硬くならない
右胸の筋肉に
熱せられた刻印が
押されるのを待っている


おれは
罰せられるわけではない
刻印を押されることは
おれが望むこと
おれが受け入れること
すべてはおれの意思
刻印には
おまえを失った日付が


胸に刻印される瞬間
おれの体は感じたこともない
鋭い痛みに支配されるのだろう
失神して失禁するのかもしれない
だが
おれは忘れない
おまえを失ったあの日
心臓を射抜いた
鋭敏な痛覚の棘を
おれは忘れたくない
おまえを失って
無様にはいつくばり
のた打ち回って泣いた
あの爪の間に打ち込まれた
鋭利な針が与えた痛みを


おれは焼け爛れた
胸の刻印と共に
おまえを失ったという事実を
大事に抱えて生きていく
それが
おまえに向けて送る
手向けの花


刻印された時
すべてが始まるのだ


自由詩 緋文字 Copyright 寒雪 2010-12-17 08:50:44
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