冷たい季節
ホロウ・シカエルボク




私は膝に子猫を抱いている
二日前に死んだ子猫
それはすでに腐敗している
私の腕からその猫の肉体が垂れ下がっている


私は歌を口ずさんでいる
題名が思い出せない歌を
唇をきちんと振動させることが出来ないと
歌うことが出来ない難しい歌を


12月の夜の窓の外は
二度と帰れない世界を想像させる
死んだ猫の臭いを嗅ぎながら
私はそこに住処を構えることを呆然と考えている


強い風が窓を揺らすの
私はまるで狙われているみたい
薄雲にまぎれた狙撃手が
強い目算で私の眉間をきちんと捉えている気がするの


蝋燭の灯りが揺れるわ
猫が崩れてしまわないよう
あまり動けない私は
影の国へいつか溶けてゆくに違いないわ


甘い音楽が聴きたいの
ディジタル・ビートの冷たい感触じゃなくて
体温に作用するような確実な音楽が聴きたいの
血液が流れることはそんなに簡単なことではないわ


膝に子猫を抱いている
二日前に死んだ子猫
それをどうにかしたいわけではなくて
ただそうしていたいだけのことなの


私はあなたの住所を思い出そうとしている
あれからとても長い時が過ぎたみたいね
まだあなたに手紙を出せるか試そうとしている
だけどそこに何を書けばいいのか…


冷たい季節が来るわ、そうよね?
膝掛けを用意しなくちゃ
新しい紅茶の葉を出さなくちゃ
温かいシチューを作って食卓に並べなくちゃ


冷たい季節が来るのよ





自由詩 冷たい季節 Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-12-14 23:03:15
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