出勤初日の女
はだいろ


ブルース・スプリングスティーンの、
1978年のアルバム「闇に吠える街」セッション時の、
未発表音源ばかりを集めた3枚組のレコードを、
買ってから、
ずっと聞いている。

お茶の水のディスクユニオンで、いったんは、
(女の子を呼ぶお金がなくなるから)
その日は、買わないことにして、
地下鉄への長いエスカレーターを降りたのに、
やっぱり、やっぱり、
って、引き返して、
買って帰ったのである、宝物のように。

ぼくは、
ブルース・スプリングスティーンに、
実は、そんな、思い入れはなかった。
中学生のころ、友達は大ファンだったけれど、
ぼくにはメガセールスのマッチョなアメリカ代表でしかなかった。
しかし、
ネブラスカに深くこころを打たれ、
リヴァーを車で聞いたらとても気持ちよく、
なんだかんだで、
それなりの、付き合いを持ちながら、
いま、ぼくは41歳になり、
始まる事もなく終わったような、青春へのあこがれも、
もう持たなくてもよい年ごろになった。

なぜに、
いま、
「闇に吠える街」なのかは、わからない。
なぜに、
いま、
これだけの、すばらしい楽曲が、
一気に陽の目を見たのかも、わからない。
(ぼくは、あまり、
そのへんを、追求したりするタイプではない。
いわゆる、マニアになれない、
音楽ファンなのだ。)
ただ、
いま、
この青春の叫び、心の傷、
夢、希望、
あきらめ、
挫折、
やみくもな疾走。
ひどくこころをぶち抜かれるのだ。
中学生のころと、何も変わらず、
ぶるぶるこころが震えるように興奮する自分を知って、
なんだ、
大丈夫じゃないか、俺は。って、
思えるのだ。

いや・・・
それは、言い過ぎだろう。
やっぱり、中学生や、高校生のころ、
感じたような感動とは、質が違う。
でも、それはより、
深く、高い。
と、ぼくは言いたい。

今日呼んだ女の子は、
まるで、
4年前に振られた女の子にそっくりで、
ぼくは、
見たとたん、恋に落ちた。
今日が出勤初日だというので、
たぶん、
どれくらい、
ぼくと相性がよいのか、
まだわからないだろう。
でも、とても、とても、ひとりよがりだとしても、
ぜったいに相性がよいのだ。
最初のキスで、ぼくにはそれがわかった。
もちろん、
最初にわからなくても、
ほんとうに相性がよければ、
いつかきっとわかる。
そう、
ブルース・スプリングスティーンの音楽のように。

木曜日は、
また、職場の女性と、デートである。
今日の子とは、
きっと、また会おうね、って、約束した。
約束ばかりの、
12月。
ブルース・スプリングスティーンの、
THE PEOMISE
を聞きながら。





自由詩 出勤初日の女 Copyright はだいろ 2010-12-14 22:16:41
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