ミッドナイトブルー
三田九郎

瞳を閉じて

耳を塞いで

夜の海に漕ぎ出した

月光を浴びる両の手

持ち合わせの錆びたナイフ

ためらいをなぞる海面の揺らぎ

切っ先の甘いきらめき

冷気で象られた静謐の片隅で

わたしはひとり胸を裂き また

誰かのいのちを取り出してみる

青い鮮血が溶け出し

身体を

船体を染め

あらゆる分類は境界を失い

輪郭も

ニュアンスも

手触りもなくなっていく

珈琲に放り込まれた角砂糖の要領で

わたしはあなたに

名も知らぬ誰かになり

夜の海に船体に

冷気の四方に薄まっていく

生まれ落ちたあの時 あの場所から

どう踏み出せば良かったのだろう

誰かのいのちと

他人行儀に対面し また

夜半過ぎの海上で

わたしはわたしに涙するのだ


自由詩 ミッドナイトブルー Copyright 三田九郎 2010-12-14 21:38:24
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