予約困難な女
はだいろ

俺は金では動かない。
というのは、とても、
立派だと思う。
ぼくもそうありたい、
男ならば。
そう思います。

ところが、
ボーナスというものを、
もらってみれば、
ああ、
これがなんとも嬉しい。
にやけてしまうくらい、
嬉しいのである。
骨の溶けた、俗なにんげんだよ、
ぼくはもう。

それで、一気に、女の子を買ってしまおうと、
いつもは使わない高級店に電話したけれど、
世のひとびともだいたい同じことを考えたのか、
単に当日予約が甘かったのか、
超人気の美少女は、
もはや秒殺で売り切れだった。
それでも、
今日のぼくはがっかりしない。

新橋のタミヤショップで、
ロータスのプラモデルを買って、
(小学生以来だと思う。
なぜか、
プラモデルを作りたくてたまらなくなったのだ。)
とおりがかったみゆき座で、
ノルウェイの森が初日だったので、
これ、
絶対見るもんか、と思ってたのに、
つい、
ポップコーンとコーラを買って、
前から3列目に座ってしまった。

今日の朝も晩も、食事は松屋だった。
こないだ買ったブルース・スプリングスティーンの、
未発表曲ばかりの3枚組のレコードを裏っかえしながら、
ちょっと部屋を片付けた。
彼女をつくろうと思う。
そしたらこんな、
風呂の排水溝みたいな、ぼくのこころの穴も埋まり、
もっと音楽を聞くことや、
もっと落語に行くことや、
もっとプラモをつくることや、
人にやさしくなることや、
仕事に余裕をもつことや、
そうゆうことが、
うまくできるような気がする。

優先順位を下げるのだ。
息も詰まるような恋愛なんて、
交通事故みたいなものだ。
のぞんでできるものじゃないし、
そうなってしまうときは、
逃げようにも、
ぜったい逃げられないのだろう。

映画は、
思ったよりもずっと良かった。
松山ケンイチ君が素晴らしかった。
予約が取れなかった女の子を、
いつかキャンセル待ちでもいいから、
抱きたいと思う。
のぞみえるものならただ、
待てばよいのだ。
人生なんて。








自由詩 予約困難な女 Copyright はだいろ 2010-12-11 20:36:28
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