高浜
せかいのせなか

 
浜辺に崩れかかった民宿が一軒とりのこされていて
ひやけた壁のうえを暗灰色のツタが何十本もからみつくようにして這いまわっている
看板に書かれていた文字はとけたチョコレートのようにぼやけ
まっさらな荒廃ということばをおもいついて黙った

遠く水際をあらう波の音と
きめ細かな砂がこすれあってさらさら鳴くほかは
なにもきこえてこないので
わたしがここで考えたことすら
うっかり風景にしみだしそうでこわい

あいするには
輪郭が必要だ
かばんのなかに忘れものをしたような気分で
ちいさく口にだしてみる

あいするには
必要だ


防波堤のほうから子どもの声があがり
糸が切れたわたしはあわててその端をつかみ
ていねいにむすびなおして仕舞った
わたし自身どこかよくわかっていないほんのりあたたかいあたりに
むすびなおして
仕舞った





自由詩 高浜 Copyright せかいのせなか 2010-12-11 00:11:45
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