秋の天気雨  虹が架かる空
北大路京介

京都市内は天気雨
 
烏丸通りを東へ進むと うっすらと虹の橋が

鴨川のあたりから 色づいた東山を通り 比叡のほうへと伸びている

消えそうな七色の向こうに

カメオベージュ、アイボリー、 コロニアルイエロー
キャメル、カーキ、ティーグリーン 自然が織りなす葉の色々

そして、空のブルー 雲のホワイト
 
ななめ上には ハーフムーン
 


   autumn leaf


木々と地球の引力が作った 落ち葉の道を歩く
 
ミルフィーユとは "千枚の葉"という意味だっただろうか

幾重にも積もった葉を踏み歩む
 

   sun shower

鴨川に出る頃には もう虹は消えていた
 
緑からワインレッドへ 紅葉グラデーションの美しさに目を奪われる
 
たしか これは 桜の木だったのではないか


   autumnal colors

春はサクラ  秋はモミジ

春は桜  秋の桜はコスモス

そんな思い込みが 秋のサクラを "桜"と気づけずにいた

 
ピンクの 白ピンクの 花びらを 風に舞わせ

4月の注目を独占するかのような桜

潔く散る姿に 儚さ 死の美学を見たつもりでいた


「 人間も 青春に生き 若く輝き 美しくあるのだ 」と
「 咲き誇り 散ったあとは 寂しいものなのだ 」と
「 散ったあとは 毛虫がついて気持ち悪い 」と
昔、愛した人が 桜に自身を重ねていたことを想い出した

だから 人は 彼女は 咲き続ける時期 美しくあり続ける時期を 人生と捉えたのだろうか
 
どうして 花びらの美しさばかり追いかけてしまうのだろうか
なぜ   なぜ 追いかけてしまっていたのだろうか
 
桜の木は 暑い暑い夏を越えて 大人のオシャレをしていたのに

  chic   sick  chic   sick  chic  sick

春は 花で魅せ

秋は 葉で魅せ

なんとステキな落葉広葉樹であろう


  cupro nickel coin

春夏秋冬 あなたを忘れたことはありません
 
春だけでなく 春も夏も秋も冬も 桜を見ていました

あなたが好きな桜の花

自販機の前で レジの並びで 白銅のコインに

見つけていました

見つけてしまいました
 

  桜を見るたびに あなたを想い出してしまうのです
 
  一年中 春には とくに強く想い出していました

  もう春だけではなく 秋にも桜が強くなりました



あなたがいなくなってからも  あなたの誕生日を祝っています

とても寒い凍える日でも  僕は あの日に帰るのです

原谷の 平野神社の 祇園白川の 円山公園の
清水の 醍醐の 半木の道の

あの桜色で溢れた世界を ふたり並んで歩いた日に

  unseasonable flowering


僕は 桜になれなかった
 
僕は 桜になれなかった

僕は ぼくは  ただ咲くことも 狂い咲くことも 出来なかった

  flower  bloom  flower  bloom

人は花ではない  僕も花ではない

桜の蕾を見つけ、花が咲き、桜吹雪を潜り
杜若、牡丹、紫陽花、向日葵、菊、秋桜、ポインセチア
山茶花に梅  また次の花 また次の桜の蕾を
探して 見つけて 愛でる

あなたは 花であった  花であろうとした

桜であろうとした


 秋の澄んだ空気が 頬の醜い雫を冷やす

  monochrome  monochrome  colour  color

モノクロームの世界に 色をつけてくれたのは あなたなのに

あなただったのに

なにも恩返しが出来なかった


白黒の世界に  いや 限りなく漆黒に近い暗闇にいた 僕は

"世界"を知らなかったし 見えなかった


   いつだったか あなたが別れ際に言った「死なないでね」

   その声が頭に残ってるから 死なないでいる

  careful  colorful   careful   colourful

    顔で笑って 心で泣いて

太陽のような笑顔  胸の奥は暴風雨

強がり 意地っ張り  天の邪鬼 雨の邪鬼

 ひねくれ 高いプライド 見せない涙


                今なら、きっと解ったのに


秋 もみじ 
天気雨 にじ

雨粒に 日光が分解され 複数色の帯を作る

天気雨は 虹を観られる可能性が高い

   tears    raindrop    tears    raindrop

 なにもかもが 真っ黒にしか見えなかった

 白か黒かしか 解らなかった

黒・黒・黒・黒・黒・白・黒

今は、見える

赤・橙・黄・緑・青・藍・紫 濃い虹 薄くなっていく虹

紅葉・黄葉・褐葉 分解されるクロロフィル

青空 白い雲 川に映る桜の影


  いろんな色が見えた今日  だけど あなたがいない京




天気雨は 『キツネの嫁入り』とも言います

嫁入りで 誰か泣いているのでしょうか

雨は 誰かの涙なのでしょうか


あなたのいない秋は とても寒くて

あなたのいない冬は もっと寒くて

あなたのいない春は どんどん色褪せていく

あなたのいない夏は  あなたがいなくなった夏は ただただ嫌い 大嫌い


温度のない あなたは 心から笑うこともない

抜け殻の あなたに 「ありがとう」と云っても 聞こえていない


   refrain  refrain  riff rain  refrain

   いつだったか あなたが別れ際に言った「死なないでね」

   その声が頭に残ってるから 死ねないでいる


   いつだったか あなたが別れ際に言った「死なないでね」

   その声が頭に残ってるから 死ねないでいる


自由詩 秋の天気雨  虹が架かる空 Copyright 北大路京介 2010-12-07 02:10:35
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