採光
たもつ

 
 
木に実っていた最後の世界が
その重さに耐え切れず
落ちる
あっ、という誰かの叫びは
空気を震わせることなく
そのまま大気中へと浸透していく
店頭に並んでいた時計の化石を
少年がそっとポケットに入れる
小さな罪悪感の海では
銀色の魚が群れて泳ぎ
思考で生きている巻貝の一種が
舐めるように水底をはっている
奥まった日当たりの悪い書斎で
あなたは昔の咳をする
障子を少し開けると
細く柔らかい一筋の光
机の端に射し込んでいるのが
今でもわかる
 
 


自由詩 採光 Copyright たもつ 2010-12-03 22:53:49
notebook Home 戻る  過去 未来