落下
寒雪



おれはただ落下している
飛び出したのが三十階建てのビル
だからおれは数秒後には助からないだろう
勘違いしないで欲しいのは
おれは死にたかったわけではないのだ
むしろ積極的な肯定的な思考から
結果として今重力に逆らうことも出来ず
空気の切り裂く叫びを聞きながら
おれはただ落下している
なにがおかしかったのか整理してみる
おれが朝目覚めた時
ある考えがおれの起き抜けの頭に浮かんだ
それはとても魅力的におれには思えて
朝ごはんを作って食べている間も
その考えがおれの前頭葉を支配して
いてもたってもいられなくなった
そしておれは服を着替えて靴を履き
まだ嘲笑って朝の景色に居座ろうとする
肌寒い空気を手刀で切りながら
ビルの屋上に向かったのだ
屋上から見る地上は豆粒で
昔見た箱庭のようでジオラマのようで
一瞬自分が世界のすべてを握っていて
歩いてる人間を歩かせるのも走らせるのも
自分の手の中に決定権があるように思えて
ひとしきり笑った後おれは
頭の中にへばりついて離れない
おれの傑作な考えを実行したのだ
だが
実際の結果はおれの理想を裏切った
だからおれは今こうして落下を続けている
こんな死に方をしたら
おそらく遺書のない自殺とか言われるのだろう
実際生活は苦しいし他人にも時々死にたいとか
日々の辛さを愚痴ってきたのだから
今一番後悔してるのはそれさ


いい考えだと思ったんだ
念じたら空を飛べるって
きみもそう思わないかい?


自由詩 落下 Copyright 寒雪 2010-12-01 09:13:20
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