生きるということ
yumekyo

何かを求める
何かを探す
何かを目指す
何かに恋する
何かを愛する

目的語が明瞭な文章がタイトで力強いように
力強く輝き他人を惹きつける人間は
必ず「何か」を内に込めている

私が京都で現場に居た頃に
未納保険料の督促状をばら撒いて
対象者を呼び出して納付を督励する業務があった
原色の封筒と挑発的な呼出状を片手に
同年代の若者たちが
年老いたご両親に手を引かれるように訪れてきた
「どうせ払えないから型通り免除制度の説明をしておけ」
うんざりした口調で諭す先輩方を他所に
駆け出しの頃の私は無我夢中で窓口応対をした
相談をするというより最初から懇願し頭を下げていたのは
もっぱら若者のご両親だった
私は当初 いちいちいたたまれぬ心情に陥ったが
少しずつ慣れてくるに従って
ご両親が心のうちから消えて若者の姿が残るようになった
若者達は私の方を向いているが捉えてはいない様子で
ご両親の問いかけにも反応を示さなかった
時間が経って漸く気付いた
若者達は生きては居ない 
死を隣に眠ることを選択しているのだと

周りの大人たちは訪れてきた若者達に対して
直截的に「何か」を回答させようと問い詰めてばかりいる
自らも不安定な雇用状況に置かれているものだから
ストレスから来る苛立ちを抑えきれないのだ
「何か」を直截問うのは訪れてきた若者達には酷に過ぎる
そもそも糸口すら与えられてこなかったかもしれないのだから

何かを求める
何かを探す
何かを目指す
何かに恋する
何かを愛する
これが 生きるということだけども
何もかもが 金と無責任な言論で相対化された現代では
得ること自体が闘争の始まりのようにも思われる


自由詩 生きるということ Copyright yumekyo 2010-11-27 22:05:09
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