マネキン
nonya
わたしを見ている
あなたのネクタイが
少しだけ曲がっているのが
気になって仕方がないけれど
愛しさが憎しみに変わる瞬間を
型に流し込んで作った
わたしの細すぎる指先は
ディスプレーの虚空に固定されて
動かない
わたしを見ている
あなたのまなざしに
少しだけ可愛らしく
微笑み返したくて仕方がないけれど
つぶやくことさえ許されずに
目抜き通りの方向へ捩じ曲げられた
わたしの小さすぎる顔は
丹念に憂いを書き込まれたまま
動かない
あなたにとっては
好奇心のアンテナをほんの気紛れに
揺らしただけのこと
あなたにとっては
誰かの笑顔をわたしの枯葉色の服に
重ねてみただけのこと
哀しくないけれど
つまらない
綺麗に磨きをかけた
厚さ数十ミリのガラスに
見るはずのないわたしと
見られるはずのないあなたは
永遠に隔てられて
出会えない