この世のひかり
吉岡ペペロ
また動物の話をはじめた
彼女はたまった動物番組を見ながら
いっしょに歩くように話してくれる
自然が好きなの、山登りじゃないよ、そういうんじゃないの、
やわらかな鼻声がかわらしく跳ねている
彼女の動物好きがなぜなのかを考えながら
話にあいづちを打っている
アザラシの足って、なんで退化したんかな、
進化しようと思って進化した動物はいない
退化にしてもそうだろう
海が黒い、きたないとかじゃなくて、深くて、黒い、
シュノーケルしたとき海のなかを
ゼリーみたいだと言ったのを思い出す
海亀やさかなたちが、おいでおいでってしてた、
動物たちの姿かたちや行動が
彼女にあたらしい発見の興奮を与えている
動物って、食べることが重要みたい、食べるためにすごい旅したり、からだもそれに適応して進化したり、
なにかいいことを言おうとしても言葉にならなくて
ただあいづちを打つばかりだった
中原中也の詩を思い出す
長男文也と動物園にいったときの詩だ
どんな動物を見ても猫(にやあ)と言うばかりの文也が
さいごに見せた鹿だけは
つのによっぽど惹かれてか
なんとも言わず眺めてた
ほんにおまえもあのときは
この世のひかりのただなかに
立って眺めていたっけが・・・・