林檎もぎ
砂木

今年最後の林檎もぎの日は晴れて
山に建つ我が家では霜が降り冷たかったけど
生まれた家の近くの林檎畑に長靴で行くと
陽気で 草露になっている

十月の葉取りから会社の休みには手伝い
雨の日は雨合羽を着て林檎だけをみつめた
専業の年老いた父母と 勤めのある弟夫婦
近くに住む弟と 休みを利用しての農作業
秋は遊べると思うなよと 小さい頃から言われて
染み付いていたわけでもないが
雪が降る前に収穫しなければいけないものだから
溜息まじりにも かけつけてしまうのだ
秋は日の出が遅く 日の暮れるのは早い

青空が白い雲と綺麗に回っている
六尺のはしごの上 八尺のはしごの上
もぎ取った林檎を肩からかけた籠にいれつつ
葉っぱしか残らない枝から空が広くなっていくのを
地面からしか登れない木が 重みから解放され
葉が役目を終えて 黄色に黄緑に色づいて
風にちぎられるままになっていくのを
家族の生活を支え 糧になってくれて
さようなら ありがとうと 毎年 見送り

さあ 最後の一個に手をかけて
空から見れば 黒点だった物を獲り終えた
ぽかりと覗いた青空
この林檎を持って 私は宇宙には行けないけれど
あの青空の向こうに 今は居る人々も
きっと喜んでくれている

収穫が終わる頃になり 急に体が痛くなったと
父母が愚痴を言い出す
ほっとして気が緩んできたのだろう
早く寝て休めとしかいえないけれど

林檎畑の木々はこれから雪を迎え 冬の陣に変わる
豪雪にならないように空を見上げる
裸木に宿る生命の炎が どうかたえませんように




自由詩 林檎もぎ Copyright 砂木 2010-11-21 14:02:21
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