(あれもこれもそれもほしい)のは(なにもほしくない)と同義語だって(パパにもママにもムスメにもなりたい)と言ったら、誰もが口を揃えてムリだと笑ったの。
ちいさなわたし
ぬいぐるみに毛布を掛けるのをやめた夜
どんなに夢見たところで
じぶんは変われないことに気がついた
いくら食感を拒んでも飢渇に苦しむように
どこまでも浅ましい目障りなからだは
生れ落ちた日しろい台帳に記録されて
いとなみを覚えるようにと
プラスチックのままごと道具を与えられた
パパにもママにもムスメにもなれずに困惑して
ちいさなわたし
陽が暮れるまでひとり
教室で大嫌いな本を読んでいたあの日
(あなたには問題がある)と
閉じ込められた暗い部屋
本しか入っていない鞄をひっくり返されて
ふで箱からこぼれ落ちた鉛筆の
折れた芯を拾い集めたら血の匂いがしたから
これは怪我なのだと思った
けれどどこにも傷跡がなくて
ちいさなわたし
帰り道の曲がり角を曲がれずに
足を用水路に突っ込んで
人の家の塀をよじ登って
制服がどろどろになればなるほど
軽くなる足取りに泣きながら
(ナイフなんて持ってない)のに
みんな同じ世界はうつくしいから
ちいさなわたし
脆弱な記憶をかき集めて
嵐の中で鉛の方位磁石だけ見詰めて
それでも
きよらかさを信じていたくて
(あれもこれもそれもいらない)のは(ぜんぶほしい)と同義語だって(パパもママも娘もいらない)と言ったら、誰もがかなしそうにムリだと笑ったの。
ままごとだって。
わたしはわたしの模倣を繰り返して何処にも行かれない。