左官の息子
yumekyo
左官の息子は五歳の頃から友達だった
海へと続く一面の草むらを
真っ直ぐに突っ切って遊んだ
毎日あっという間に日が暮れた
左官の息子は都会から引っ越してきた奴が大嫌いだった
大雨の日幼稚園の帰りに
一緒になって そいつの長靴を川に放り投げたら
うちの母親が迷惑した
左官の息子は年子の兄貴とふたり兄弟だった
泥だらけになって走り回るうちに
勝手に兄弟喧嘩を起こしては
いつも兄貴を泣かしてうちに追い返していた
左官の息子は雨が降り続くと機嫌が悪くなった
仕事のない親父が昼間から酒を飲むからだ
家に遊びに行って騒いでいたら
奥から手が伸びて突き倒された
左官の息子は平屋の小さな家に住んでいた
友達を誘って 罵っては走って逃げる遊びをした
猫の額ほどの 三角の庭でオカンが洗濯物を干していた
悔しそうな顔つきに見えた
左官の息子は野球がうまかった
草野球ではグランドの向こうの廃屋までボールを飛ばした
おかげでボール探しに廃屋にもぐっているうちに
みんなボロ家探検が大好きになった
左官の息子は秋祭りに血の騒ぐ典型的なムラの子だった
神無月になると祭り太鼓が虫干ししてあるのを
勝手によじ登って叩いていたら
近所のおっちゃんにとっちめられた
祭りを仕切る 旧家の主人だった
左官の息子は
小学校六年生の時に僕と同じ女の子を好きになった
争いに勝ったのは僕のほうだった
僕が放課後にずっと部屋に入り浸っていたのを知って
彼は顔を真っ赤にして怒った
左官の息子は
中学に入るとグレ始めた
タバコをふかしながら原チャリに乗って
夜道をぶらぶら走っていた
僕は近づくことが怖くなった
左官の息子は
僕よりずっと早く大人のずるさを覚えた
バスケ部の不良グループから皆をかばうと大風呂敷を広げながら
最終的には連中の忠実な仲間を演じきった
おかげで随分と退部者が出た
左官の息子は
結局親父の仕事を継ぐことはなかった
僕は街の高校に進んで
彼と離れることを選んだ
田舎を出ることを考え始めた