十一月
salco

11月、木々の葉が色づきはらはら落ち始める
北風は来年の暗澹を伝えて道行く人の首根をつかむ

11月、テラスでコーヒー飲んでる女の唇がひび割れて
口蓋で舌が卑怯な男に打電する、シで始まる五段活用

冷えたアスファルトを紙くずや身軽なものは転げ逃げ
空き店舗のシャッターを影法師が叩いて回る11月

文字の薄れた手紙の縁で指を切つたおかあ様の嗚咽が
仏間の襖越しに洩れてをりました
あたしはランドセルをぶん投げてお外へ逃げてしまつた
だつて、家の中は暗いのですから

十一月、こわばったか黒い皮膚から乞食が疥癬掻き落とす
あべかわもちをくちゃくちゃ噛みながら

十一月、死んだ亭主の愛人が今度の旦那に手を握らせる
赤い赤い口紅塗って、ざくろの色の嘘をつく

庭のあすこのサルスベリの根方に蟻が行列を作つてゐるのは
糖尿の間男が帰りしな立ち小便したからでさあ、ひ、ひひひ
雨ノ翌朝、コンコン神社ノ鳥居ノ下ニ、廿日鼠ノ死骸ガ落チテヰマシタ。
猫デハナクテ、太郎サンノ仕業ナノデス。ダツテアノ児ハ

十一月、きやうなゆびもしだいにかぢかむことをしるのだらう
あのひとのむねはまるでコヲルタアルのやうだつたけれど
あたしやね、だかれてゐるときさへしはわせぢやなかつたよ
だつて、ぢごくにだかれてゐたのだから

一一月、一年で一等、子どもが神隠しに遭う月だよ注意をし
枯野を駆け巡るのは夢ばかりじゃないからね
穴が地面に開いているなら空にだって開いているだろう?

ポチや、ポチや、
お前の黄色い毛皮がさみしく庭に咲いていた、十一月

ぢゅ、ぢゅ、ジュウイチガツ 
ほら、口が汁けで一杯だ


自由詩 十一月 Copyright salco 2010-11-01 21:00:59
notebook Home