霧の顔
殿岡秀秋
酔いすぎたあとの朝の目覚めは
透明な悲しさ
霧の湖の水面に
さざなみがたち
底がゆれる
どこまでも沈めるようでいて
波間にただようしかない
ぼくの影はぼくの形から
女の長い髪が広がるように
はみ出している
湖の底に引き込まれそうな感じが腹のあたりにきて
波紋の先が喉のあたりに
剃刀のようにあたって
剃られてくと
からだの芯が冷たくなる
このまま時間という湖に
浮いているのか
黄色くなった葉がおちてきて
目の前でゆれる
よくみると
赤や緑の小さな虫が
葉の中に埋もれて死んでいる
ぼくは葉を集めて身をくるみ
蛹になる
その中で
眠りながら羽を育てる
ぼくが死ぬ間際になると
過去の感情が
その場面をともない
湖に大きな波となってうねるだろう
蛹から抜けてぼくは飛び立つ
湖面の上で羽根を振るわして
重なる波の
行方をみおくる
霧が
湖をだくのは
生まれてくる子どもを
受けとめるのに似ていないか
重くても
泣きやむまで
あやしつづける
母のように
霧の顔が微笑む