「 マロニエ 」
月乃助



変わらずにやってくる
やわらかな朝に手をふれるのが嫌になった
億千の人の一人でいたかったのに、自分に
うそをつくのに疲れた


少女の箱はもうなにもなくなって
そこから 生まれてくるものもない


ことりことりと考えては、すべてを
失うことによって日常を矯正する
その一つ一つを確かめては消し去る


no school / no classmates / no friends / no teachers
no shoes in the shelf / no pencils in her pencil case
no filthy messages in her cell phone / no superheroes
no lunch with nobody / no smile / no tears / no regret


仕舞いこんだ
ありふれた命題に悩まされては、
くり返す日々も


空虚のビルは
もう随分前から傾き始めて 少女は、
その上に立っていることなど 耐えることなどできはしなかった


落ちていく
ひとりになって
誰もが見ないようにして 見つめるなかを


その時
日常を消し去るヨロコビに
ほんの一時 シアワセになりながら


十二歳で死ななければならない
その理由を、路上の
マロニエの棘の実をひろうように手にすれば
はかない海鳥の鳴き声は
少女の 最後のつぶやき


ごめんなさいお父さん
ごめんなさいお母さん
ごめんなさいお兄ちゃん
ごめんなさい 私


いままで
ありがとうございました







自由詩 「 マロニエ 」 Copyright 月乃助 2010-11-01 05:56:11
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