「 マロニエ 」
月乃助
変わらずにやってくる
やわらかな朝に手をふれるのが嫌になった
億千の人の一人でいたかったのに、自分に
うそをつくのに疲れた
少女の箱はもうなにもなくなって
そこから 生まれてくるものもない
ことりことりと考えては、すべてを
失うことによって日常を矯正する
その一つ一つを確かめては消し去る
no school / no classmates / no friends / no teachers
no shoes in the shelf / no pencils in her pencil case
no filthy messages in her cell phone / no superheroes
no lunch with nobody / no smile / no tears / no regret
仕舞いこんだ
ありふれた命題に悩まされては、
くり返す日々も
空虚のビルは
もう随分前から傾き始めて 少女は、
その上に立っていることなど 耐えることなどできはしなかった
落ちていく
ひとりになって
誰もが見ないようにして 見つめるなかを
その時
日常を消し去るヨロコビに
ほんの一時 シアワセになりながら
十二歳で死ななければならない
その理由を、路上の
マロニエの棘の実をひろうように手にすれば
はかない海鳥の鳴き声は
少女の 最後のつぶやき
ごめんなさいお父さん
ごめんなさいお母さん
ごめんなさいお兄ちゃん
ごめんなさい 私
いままで
ありがとうございました