日常の渋滞
A道化

 込んでいるのは駅前だけかと思った。310号線に左折したらすいすいゆく。のだと思った。が、310号線、北へ、車は続いていた。
 永遠に続くような気がした。永遠に続いてくれればと思った。フロントガラス風景、北へ続く車の羅列の背から空にかけて陽炎がぐらぐらしており、その風景だけを見れば、夏、だった。だから車が気だるがっている、そう思って笑おうとした、が、。
 男が歌っている音楽のMDから女が歌っているものに変えた。
 渋滞の最後尾に並ぶまでの速度のあった環境を思い出した、それは駅までの道のカーブ、私はハンドルの円の中に渡ったひとつの引っ掛かりになる部分に左手の中指一本をかけていた、反対車線の向かい側からバスが走って来ていた。中指一本だと思った。
 つるり。おわり。
 ハンドル操作を誤るって、そういうこと、簡単なことなのだと気がついた。 それを思い出しながら、私は渋滞の一部になっていた。しょうがないと思えば殆ど運転作業のない渋滞では車の中はとても個人的で快適な空間だ好きな気温好きな音楽大声を上げても殆ど外からはわからないだから私は声を上げるただわーとかあーとか叫ぶ、けれども粘ついた泥の中にとらわれているような感覚に取り付かれてしまえば車なんて完全にお荷物だ晴れているのに私を小さく閉じ込めてフロントガラスの風景で夏を強いてくるドアを開けて飛び出したら本当はすっと肌を冷ますような空間に違いないだからこのまま仕事も車も携帯電話も何もかもから抜け出して、
 例えば、海に行きたい、砂浜ではなく、港。現実逃避? かもしれない、けれどひとつの現実を抜けてああ海の在る現実へ。
 ある家電量販店が閉店セールをやっていて、突然交通整理をするガードマンに私の車は遮られ、彼は何か言っている、真っ直ぐ行きますか?
 それともこの店に入りますか、と、そういうことなのだろう。いつもなら駐車場に入る車の列など出来ない店なのだけれども、今日は閉店セール、交通整理が必要なのだ。
 あ、はい。
 そう答えるとすんなりそのまま通してくれ、数秒後、渋滞を抜けたと気がつく、原因はその家電量販店だったと気がつく。私は呪詛の言葉を吐く。救いを求める祈りのような言葉と、交互に、吐く。


散文(批評随筆小説等) 日常の渋滞 Copyright A道化 2004-10-23 07:09:42
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