今日もまんざらじゃなかった
ホロウ・シカエルボク




生温い光り方をする情緒不安定な欲望の形を丸飲みする午前、仰ぎ見た明星のなんと鮮やかなことか?口角をむやみに上げた気の触れた女たちの集団が、まだ人もまばらだというのに毛皮の生産に反対して肌身を晒す週末、ぶらぶら、し通した俺はもはや眠いのかどうかすら判らない…数十分前この身に投入したジャンク・フードの機械の中で酸っぱくなってた標準的なコーヒーの味が喉元から離れない、街灯の側のゴミ捨て場に木のない素振りで近寄るカラス、慣れた目つきがなんだか微笑ましい、仮眠中のタクシーの運転手、メイン通りで何度かすれ違ったジュディ・アンド・マリーにいまだに心酔してるみたいなカップル、最後に見た時は女のパンティーがデニムのミニからずり落ちていた、あー、スイートベイビー、なんだかちょっとだらしない臭い―配送のトラックが薄もやを掻き乱して、駆け出しの演歌歌手でも出てきそうな気分になる―一分待たずに食べられる牛丼屋の店先、座り込んでいる水疱瘡みたいな身体つきのでぶ猫…妙に鳴らしながら駆け抜ける原動機付自転車、余計な元気は誰かを眠たくさせるものだ、自動販売機、ホットの缶コーヒー、良く出来た味ほどあとで食道で悪さする、だけど近頃のこのオリジナルなスタンスには妙な快感がある―個室ビデオの小さな出入り口から何とも言えない表情で出てくるヒョロ長い眼鏡の男、射精がお前をそんな気分にさせるならその臭い右手にゃもう幸せなんか掴めないかもだ、その先のラブホテル街でごみを出してる中年の女、誰の視線も認めないという顔をして建物に戻った、生きるためにしてることを恥じるのはよしなよオバサン―はみ出した使用済みのコンドームが少々喋り過ぎる、ハッハ、ごくろうさん、イキリ立っては行きつくところなんて俺だってまったく知らないわけじゃないさ…路地に入ると若い、金髪の男とサラリーマンがフラフラになって喧嘩をしている、俺には奴らは喧嘩をしたがっているというよりはフラフラになりたがってるだけのように見える…打ち出されたはいいが、目標を知らないミサイル、そんなもんとぼんやりシンクロする、身元不明の頭蓋骨と生前の写真を合わせてみせるアレみたいな感じでさ―路地のそこら中で垂れ流された小便が朝に気化している、ほんの少し前には金でやり取りされた水分、いまとなってはただの甘ったるい臭み―路地を抜け出して公園のベンチに腰を下ろす、向かいのベンチじゃ前後不覚のおっさんが寝ている…酩酊気味の老若男女、それでもも一度目線を上げて歩きだす、純情過剰な街角の応援歌の、グルーヴしないバスドラの裏を取りながら…エブリバディ夜明けだぜ、木々の葉の隙間から連続する閃光、まんざらじゃない、ぜんぜんまんざらじゃない、意味や無意味や鋭気や徒労、どんなプラスやマイナスがスッキリしない腹の中でくんずほぐれつかましていたって、こんな所行の挙句でも俺は全然まんざらじゃない―足もとの砂を何度か擦って色の惚けたスニーカー、息をついたら家に帰るぜ、光のあるうちゃ眠りたおすさ…





自由詩 今日もまんざらじゃなかった Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-10-30 14:46:08
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