避難(第2稿)
原宿
「そっちへすすんで」
「なぜ」
「見せたいものがあるんだ」
「何を」
「見ればわかるよ。嫌なら見なくてもいいけど」
「わかったよ。左だね」
「そう。門を背にして左」
「あの小屋ってトイレでしょう?」
「そうだよ。よく知ってるね」
「まあね」
「ここには来たことある?」
「うん」 (その)
「いつ」
「もう何年も前」 (小屋のようなトイレに足を踏み入れ)
「そのときと比べてどう?」
「何が」 (私のからだの中の一部が)
「何か変わった?」
「さあ。覚えてない」 (外へ出て行ったので)
「そう」
「トイレに行ってもいい?」 (さっきとは別のものへと)
「ご自由に」
「広くなった」 (私のからだは)
「何が」
「前に来たときと比べて」 (変化したのだと思う)
「変わらないよ」
「隅っこの方ばっかり歩いてたからね」 (曇った鏡に映る)
「行かないの?トイレ」
「うん。聞いてみただけ」 (顔は)
「見える?」
「何が」 (もはや私のものである必要はなく)
「桜。きれいでしょう?」
「まさか。いまは秋だよ」 (水に濡れる手は)
「そうか。いまは秋か」
「うん。秋だよ」 (誰の手であってもよい)
「もうすぐ冬が来るね」
「そりゃそうさ」
「寒い?」
「ううん。あったかくしてきたからね」