情事
豊島ケイトウ

 いっぱしのおとなになりてえ
と泣きながらうそぶく四十男を
わたしは胸の中に招き入れる
 いっぱしのおとなはつまらないわ
と慰めてあげることも
 いっぱしのおとななんかくそくらえ!
といっしょに闘ってあげることも
もちろんできるのだけれど
 そんなことどうだっていいじゃない
口からすべり出たのはそれで
その瞬間 四十男の眼がふっと 消えた

   *

 ねえ いま喪失したの?
ととまどいながら訊ねるわたしを
四十男は胸の外へと突き放す
 おれの眼をどこにやった?
と恫喝される可能性も
 さっさと別れちまうか
と嘆かれる可能性もあったけれど
 まあそんなことどうだっていいや
口から吐き出されたのはそれで
その瞬間 わたしの子宮にこつぜんと
いのちが宿った――双子の


自由詩 情事 Copyright 豊島ケイトウ 2010-10-29 09:07:15
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