情事
豊島ケイトウ
いっぱしのおとなになりてえ
と泣きながらうそぶく四十男を
わたしは胸の中に招き入れる
いっぱしのおとなはつまらないわ
と慰めてあげることも
いっぱしのおとななんかくそくらえ!
といっしょに闘ってあげることも
もちろんできるのだけれど
そんなことどうだっていいじゃない
口からすべり出たのはそれで
その瞬間 四十男の眼がふっと 消えた
*
ねえ いま喪失したの?
ととまどいながら訊ねるわたしを
四十男は胸の外へと突き放す
おれの眼をどこにやった?
と恫喝される可能性も
さっさと別れちまうか
と嘆かれる可能性もあったけれど
まあそんなことどうだっていいや
口から吐き出されたのはそれで
その瞬間 わたしの子宮にこつぜんと
いのちが宿った――双子の