Play it Again
ホロウ・シカエルボク




鈍い響きの衝突音がふたつ街路のむこうで響いて
お前は身をすくめて長いことそのままで居た
銀色の月あかりが割れたボトルを煌かせて
呟きみたいな小さな反射が
壊れた夢とシンクロして跳ねていた


使われなくなった水のポンプの残骸に腰を下ろして
一〇年前の一二月のことを長く話した
教会に行くと言ったお前を鼻で笑ったら
ニューイヤーまでずっと放っとかれたあの年のこと
身を切るような冷たい風のことばかり覚えていた


街角のオールナイト・ムービー、お決まりの演目
いきがるのに疲れた野良犬とチャチなホリ―のためのバラッド
ニコチンの臭いが染みついたシートで
古く鮮やかなシネマが笑いかける暗闇
エンディング・タイトルが終わっても白い画面を映しといてくれ


マリッジ・リングを指に残したままふいに戻ってきた
行きつけだった店のハンバーガーが恋しくなったとか
くだらない軽口を叩きながら
お気に入りのブーツが帰り道でオシャカになったって
他の誰かに責任があるみたいに腹を立てていたっけな


そうだ、お前の言うとおりだ、リセットできない事柄なんて
なにひとつない、この世の中のどんなことでもだ
だけど残り時間はどんどん少なくなっていく、お前がお前である限り
どんな見知らぬ土地だってたいした違いはないんだ
新しい服を着て同じ街を歩くようなものさ


パトロール・カーが暗闇に光を撒き散らして
しくじったやつらのもとへアクセルを吹かしている
野次馬たちがはしゃいでいる声から判断するに
どちらかの車の運転手だか同乗者が逝っちまったらしい
額がへこむくらいに激しく打ちつけちまったらしい


お前は顔をしかめていた、自由には代償がつくものだって
あの時初めて気がついたのかもしれないな
俺は足元の舗装の崩れたところを爪先でほじくりながら
お前の瞳に何が書いてあるのか読み取ろうとしていた
もう隙をつかなきゃそんなことすら出来なくなっちまっていたんだ


どこかの窓から落ちて中身を撒き散らしたプランターが
飛び降りた誰かに思えて寒さが増した
窓を見上げては見たけれどそこには何も見当たらず
そもそもどのくらいの人間がそこに住んでいるのかすら
判らないくらい同じ程度にうらぶれた窓ばかりだった


お前の荷物がまるで
この街で手にしたものはそれくらいだと
話してるみたいにささやかなもので
遠く点滅してるパトカーの明かりと
その中に消えそうな横顔ばかりずっと見つめていた


朝が来たらまた同じゲームをいちからスタートするのさ
お前の指のリングは一度入れ替わったけれど
それでもやっぱりスコアを弾きだすためのアイテムになることはなかった
氷河の中で死に絶えたマンモスみたいに
おんなじ形で残ってはいるが昔とはまるで違うものだ


肩の力を抜いて長く息を吐いたら
煙草の煙みたいに薄く漂いながら消えた
いきがるのに疲れた野良犬とチャチなホリ―のためのバラッド
白み始めた空に最初に見えた雲が
お前と同じ方角を目指して流れていた






自由詩 Play it Again Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-10-28 23:23:59
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