空白 Ⅰ
曲がり屋レオン

空白は皿の上に在る
私はパンを籠から取り
ナイフで割る
そして
硬く焼きあがった皮を千切り
ワインを飲む

空白はやはり空白のままで
給仕が皿を下げ
新しい皿を私の前に据えた

パンがなくなり
給仕は皿を下げる

彼の目を盗んで
ポケットに忍ばせた空白を
私は指で弄んでは
ワインを飲む

空白は私の掌にある
ゆっくりしてはいられない

勘定を支払って
テーブルに飾った花びらから
香りをかすめ盗った
給仕が気付く前に
タクシーを見つけなくては

空白をポケットの中で転がしながら
空を見上げると
そこには何億年か前に生まれた光が
私の網膜に星を模った


自由詩 空白 Ⅰ Copyright 曲がり屋レオン 2010-10-26 23:29:09
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