カメラチック・ワーズ #5 - アパートメント
佐倉 潮
白いアパートメントが、町の大通りとはいえない、
中くらいな通りに面して建っている。5階建ての上に
は、無人駅のような空があって、雲はあまりなくって
陽射しが眩しくて、時刻は午後の2時を少し過ぎたく
らいだから、アパートメントの影は、まだ通りを半分
ほど塞いでいただけだった。
車が1台、通りを北から南へ走り過ぎ去った。
自転車も1台、同じ方角へと流れていった。
もしもどこかで、あの車と自転車とが、逢引でもし
ている物語があるとして、このアパートメントはその
背景にもならない、群像の一つとして、うっすらと存
在していた。
風が吹いた。アパートメントが作る影の中に入ると、
僕の身体が少し冷えた。アパートメントの一室から音
楽が聴こえてきた。クラプトンのバラードだった。
20歩先へ行くと、また陽の光を身体に受けた。
僕は温められた。そしてもう、音楽は聴こえない。
今日そんな風に僕はアパートメントから離れてゆき、
アパートメントは僕から離れていった。
− An apartment
Cameratic Words #5