「とりまる」
yumekyo
古ぼけた
駅の路線図にある
黄 赤 青 緑のライン
一番先っぽのほうは
背伸びをしても
よく見えないが
「とりまる」
と書いてあるように思えたから
「とりまる」「とりまる」
と読んでいた
とりまる ってなんか おもろいのぉ
僕等がいくら手を伸ばしても
届かなかったのは
コマーシャルで流れていた
551のアイスキャンデー
仕方なく駄菓子屋でいつものアイスキャンデーを買って
廃材置き場の隅にある草野球のグランドに走る
三軒隣のきょうだいの 弟の方が
板宿 西代 長田 大開 新開地 板宿 西代 長田 大開 新開地
熱射病にやられたようにつぶやきながら
グランドの周りをぐるぐると歩く
大阪 神戸
都会は遠かった
田舎の子供たちには
夢のある遊園地と同視されていたんだ
後日
古ぼけた
駅の路線図にある
黄 赤 青 緑のラインの
一番先っぽのほうについて
「『とりまる』ちゃうで『からすま』いうんやで」
親でも駅員さんでもなく親切なおっちゃんだった
『からすま』はキョウトという街にあるらしい
キョウトはお寺がたくさんあってみんなが旅行をする街
キョウトはここからかなり遠い街
まわりの人に聞いたら
キョウトの人はあまり好きじゃない
意地が悪いからって
郷里に新快速がやってきたとき
みんなが色めき立った
ずっと以前に新幹線がやってきたときは知らないけど
比較してむしろ喜ばしいという声も間違いなくあった
今にして思えばそれは田舎の冬影色の鎧を脱ぎ捨てて
名実共に都会の仲間入りが出来たという喜びだったろう
かくて田舎の人間にとっては
神戸 大阪 キョウトも容易に描ける世界になった
同じ頃
赤 黄 青 緑のラインに僕が背伸びした駅は
乗り降りする人が少なくなって
駅員さえも居なくなった
25年たって
ひとりで出てきて
ひとりで住んでる
「とりまる」 否 「からすま」
一番先っぽのほうは
先っぽらしい ちょっとせせこましい場所