確かな過去なら昨日すれ違った誰かに聞きなよ
ホロウ・シカエルボク
延髄の隙間に滑落した俺の意識
頭頂から降りてくる存在の微かな明かりを
頼りに
七つの難敵をクライミングした
考えていたより途方もない…
時間を、費やした
頑丈な窓が伝達する外気
長く閉じられた窓を開くことは容易いか?
俺は七つの難敵をクライミングした
暗い暗い澱みばかりの
街角の水路みたいな睡魔ばかりだった
神は硬く目を閉じてトランスしながら
大地を叩いてプリミティブなリズムを演ずる
その裏を捉えて
俺は呻き声を上げ続ける
反響を起そうなんて考えるな
それは確かに届いたという証になどならない
時間を逆流する時の意識
身を屈めて泣くことを忘れた赤子がそこに居た
色の別れていないビイドロの眼差しで
産道から見た最初の光を探しているのか
動脈がところどころ躓いて跳躍する
生身のポンプが嫌な負荷に耐える
セレナーデの行先は何時だって
確かめようのない大事な手紙の末路みたいで
色が変わる…視界の
目に見える物の色が変わりだす
屈強なセロファンが水晶体に差し込まれるみたいに
そのライトはどんな始末を照らしだそうとしている
暗闇にうつ伏せて顔のない敵を待つ時間
仕留めたあとで見慣れた顔がそこに現れたとしたら…
装填された散弾の遊びがカタカタと怯えた歯のように鳴る
聞いたか、反響のない振動は
霧のように体内に染み込んでゆくのだ
どこかの骨が摩耗して小さな音を立てて欠けた
俺にはそのことが判った、たまたま耳を―澄ましていたから
なにかの拍子に首輪がすっぽ抜けた
標準的戸建の申し訳程度の庭に蹲る犬みたいに
遠くの嵐が蒸し暑い風を連れてくる、そんな夜の汗には、いつも
話したくない記憶ばかりがあわれ蚊のようにつきまとって…
日常に傷んだ腕を振れ
疎ましいなら自分だけで追い払わなくてはならない
摩耗したあとの瞬きの間に瞬間的な悪夢を見た
夢魔は新しい回線にアクセスしているようだ
目眩がいつかのように同じ波を辿りながら外耳にやってくるわけは
忘れてはならないことがあるという暗示なのかもしれない
理由についてうまく
話せた方がお前には望ましいのか?
トライアングルの高い音色
夜の路地を転がって行く、誰だ、誰の仕業だ
床を見つめていた俺は
一匹の油虫を踏みつぶしたことに気付いた
ささ、やかな、内臓が語る確かな死は
だけど、哀しいくらい
故障という印象と遠く離れてはくれなくて…
身体の中で血液が
引力に誘われて違う次元に逃げて行った
俺は、そうだ、ある種の概念の弾丸によって
何度かの焼却場の中で覚えた感触によって
蜂の巣、になるまで狙われるのだと―眠りは決して確かなものではないのだと
(そして静かにリプレイを繰り返す夢魔の思念)
俺の意識は俺が殺すためにあるのか
俺の意識は
俺に殺されるために存在しているのだろうか?
逡巡と決定されてる行進が始まる、俺という組織の兵士たちの
途方もないため息がそこら中で木霊している―反響などに何かを求めてはいけないと
あれほどまでに俺は繰り返したのに…
ああ!
境界線が虚ろにぼやけた現実の収拾はついたのか?
どうしようもない摩耗は果たしてこの身をなだめることが出来たのか?
正気はすぐに逃げていこうとするから
理性の側には居ない門番を俺は必要とするのだ
強度を悟るにはマイナスの側へ踏み入れるのが一番さ
気狂いだけが理路整然と真理を語るのだ、耳を傾けるなよ
最も身近な滅びのサインを
否が応でも見る羽目になるぜ
考えてもみろよ
死に過ぎるカタルシス、なんて
天井に巨大な蜘蛛でも居ないことには…