キャンパスから
天野茂典
白いレースと
モスグリーンのカーテンの外は
朝焼けの予感
大学校舎の壁に映って
小鳥たちの目覚めをうながす
日本列島幾つの目覚まし時計が鳴るのだろう
朝だ
花々にふるふるゆれている朝露
ちいさなバスターミナルでは
回送バスが待機している
フルスピードで駆抜ける車の列は
枯れ葉にタイヤの刻みをのこす
オレンジ色に染まって
緑が濃くなるキャンパスの静けさ
女子大生はまだベッドのなかだろう
眠りの中でさざえになって海の音を聞いてるだろう
朝はやさしいトーストの匂いに満ちている
少女はしゃがんで 小川の中に生理をながす
そうして椿の花が流れくだって海にでるのだ
血の匂いには海がある
空が明るみ
大学校舎の輪郭も立体的になってきた
朝には鱏がエーテルのなかを
飛んでゆくのがみえる
泳いでいるのか
街の上を
田舎の畦を
バタフライで
みごとな朝焼けだ
蒸気機関車も眩しい
線路も草も
時刻表さえ朝焼けなのだ
焼けているのは
ぼくの魂
焼けているのは
日本人の魂
列島を銃弾する鱏のように
ぼくもパジャマをぬいで
きょうもあなたに会いに行こう
美貌の熱よ
2004・10・22