9月、10月
佐倉 潮

 9月
 
 
 かなしみがいくつかの言葉をかりて
 生活の足元にまでやってきた
 そいつらの化けの皮をはぐことはやめて
 砂のように 乾いてゆくのを
 見つめていたい
 
 ただ今は秋の気配だけが待ちどおしく
 どこか子供が 家で
 プラモデルでも作る日があればいいな
 
 あたまに描く風が止むと 時がとまる
 僕はすこし 齢老いる
 かざりのない模型が途中のままに
 置かれている 
 
 +
    夜話
 
 
    困ったことに戦争がおきたので
    その夜半「ぼん」という音は
    みんながみんな聞いたのだけど
    困ったことに「ぼん」を聞いたので
    その夜半伝えるひともうなずくひとも
    みんなみんないなくなりました
 +
 
 10月

 
 書けば書くほど余白のふえてゆくノート
 ぼくは手を休め 少しのとき空を眺める
 うすい雲に耳たぶを寄せる
 秋のためいきと 外国船の汽笛と
 とりちがえないように
   
 
 
   


自由詩 9月、10月 Copyright 佐倉 潮 2010-10-20 01:57:28
notebook Home 戻る