星
Giton
.
正義はきみの中にはない。もちろんぼくの中にも。それは空にかかっているが遠くではないいつも宙を漂っているがすぐ近くにあるのだ。見ようとすればいつでも見えるのだがきみは見ようとしないなぜならきみにとって正義とはきみの中にあるものできみはいつも自分の胸の中を探って呻吟しているからだ。
それゆえにぼくはきみに対して正義を見てほしいと願うきみが正義を見るときにはぼくにも見えるからきみが見ていなければぼくにも見えないなぜならきみだけの正義が無いようにぼくだけの正義も無いからだ。
そして正義とは何かなどとぼくに訊ねるのはやめてもらいたいもしも自分だけの正義を見ることができるならきみに見てほしいなどと頼んだりはしないだろう…
ぼくがそう言うと、きみは錆びかけた小さな箱から懐かしい鋏を取り出して青い紙を切り三角やら四角やらさまざまな形を切り出してはそっと飛ばしたきみの息がぼくにかかる沢山の青い形濃い色明るい色さまざまな切れ端一枚また一枚きみの手から零れるように舞い上がりぼくに吹き寄せる。やがて黒い帷が下りて来てぼくらを浸した…
あの静かな夜きみが小学校の鋏で作ってくれたさまざまな青い形それが正義とどんな関係にあるのかぼくは知らない。ただひとつたしかに分かることはぼくが正義を見る時にはきっとそれはきみにも見えているということ。いつか目を開きさえすればそこにはきみがいてぼくがいてその時間はずっとつづいてゆくということなのだ。
.