モザイク
小川 葉
この街の
いたるところにかけられた
モザイクを撤去する
工事がはじまっている
モザイクがかかっていた
懐かしい街並は
高層マンションに立て直され
その中の暮らしは
モザイクを必要としない
洗練された外観に
隠されていく
浮浪者も消えていった
昔よりも
格差の大きな
世の中だというのに
という不思議も
綺麗な外観の中に
内包されていく
あのビルの
十八階の灯りが
朝まで灯り続けている
何をしているのだろうか
時給数百円足らずの
あの立派な高層ビルで
人々は
何をしているのだろうか
モザイクは消えていった
詩は歌詞になり
歌詞はわたしたちの
等身大の言葉になったというのに
見た目ばかり気にして
身を削っていく
モザイクさえあれば楽なのに
とは言えない
無修正の動画のような
グロテスクでかなしすぎる
今を見ている
芸術は死んだのか
死んではいない
きっとわたしたちが
自らを食べ過ぎて
見えていないだけなのだ
ほんとうの気持ちを
打ち明けたい
君もそう思っているはずなのに
傷つけあうだけだと
知っているから
そんな暇もない
わたしたちは
生きることに必死なのだから
モザイクを撤去する
日々に追われている