朝刊配り
たもつ
マリアナ海溝の深さに目が覚めてしまったので
朝刊を配りに出かける僕の毎日が
あちらこちらから、それは誰の所為でもないけれど
くの字や、みの字になって寝ている家族の
まぶたが開いてその奥にある何かしらのものが
流れてしまわないように、そっと朝刊を配りに出かける僕の
僅かな全部が配るべき家と配ってはいけない家を
熟知しているので、その他に注意すべき事項を
かすみ草で作った便箋に箇条書きしていくとあっという間に
三十分経過し、便箋はいつものように白紙のまま食卓に置かれ
朝刊を配りに出かけると昼間に見慣れた街並みが
ドライアイなので目が痛い時間帯であるので
原動機付自転車に乗って配りに出かけると郵便受けから
手の出ている家については深爪していないか確認して渡し
一区画先にある家はいつもピンポンを押さないと
新聞を取りに出てこないのでピンポンを押すと決まって奥さんが
トランプを扇子状にして出てくるのは毎朝
未明からババ抜きに興じているからであった
密閉された原動機付自転車の中では大量発生したザリガニが
苦戦を強いられ、何と戦っているのかわからないのに防衛ラインを
下げていて、でも大量に発生しているから原動機付自転車は手で押す
のが最適な部品の塊でしかなく、首輪に抵当権つけられた犬に吠えられ
うっかり道路の真ん中に埋められた地雷を踏んで僕は蛍になる
一匹の蛍になる
そんな毎日
そして置いてきた白紙の便箋が遺書として残る
僕の毎日