ある日の現場で
番田
ーー奥さんの良く行く、カラオケに主人も同行することはなかったのだろうかと思った。それも、今時では珍しいことだなと、私は思った。ゴルフの練習場には5つほど打つ場所があって、主人は端っこから打つのが好きだったという話でもある。カラオケには、奥さんは友人と行っていたということだから、主人が同行するというのも恐らく無理な話だろうと、私はカラオケやらゴルフやら、色々なことを考えながら、あれやこれやと、思いめぐらす。犯行現場に残された物の散らばり方などについてを、頭の中でーー
被害者である主人の妻は友人とカラオケに出かけていて留守で、テーブルには血の付いたナイフに、吸いかけの煙草などが置かれていた。それに彼女の供述は常日頃幻聴を耳にするタイプという話ということなのであまり信用などはできない。黄ばんだ物の付着した白いTシャツの干してある窓に、ペットの犬は庭を恐らく今日と同じようにぐるぐると、たぶん、走り回っていたはずだろう。脱衣場にころがっているのは水で濡らした一個のタオルといった具合である。近所の奥さんは犯行時刻に何か怪しい物音を感じたという話だが、その時刻には家族の男の子の子供は、公園に野球をしにいつものように出かけていっていた。よく晴れた日の日曜日には、現場から1キロほど離れた場所で、被害者である主人はゴルフの打ちっぱなしをしに出かけていたという。ふと、ぐるぐる巻きになった包帯がベッドの下には1ロールほど入っていたことを思い出した。デスクに入った椅子はスペイン製の、何か足の恐ろしく華奢なやつだった。ちなみに、1プレイ500円で、40玉ほど箱に出てくるということだが、最近の練習場にしてはかなりお得な値段だ。
街は、もともとスラムのような、出稼ぎ労働者の居着いたようなところだったが、カラオケのマイクの製造でその産業は火を噴いた。当の犯人は金銭的理由により、安物しか買えなかったのだろうと想像したのだが、街には時折、黒塗りの車が現れて、見回すとサメのように辺りをじっと徘徊していたりもする。現場に残された血の付いたナイフは中国製ということでもある。私の実の親もカラオケ機器の製造に会社でほんの少し、携わっていたことがあるのを記憶している。それにしたって、現場には色々な海外製の商品があふれているもので、日本だったけれど、それほど、そこは犯罪の多い地帯という訳でもなかったようだった。あらゆる商品は何でも、外国では受けないという理由で、違った趣向のものを親は開発しているのだという。そんな光景も、東京の下町などでは良く見かける風景で、低所得層の人々が住んでいるエリアに彼らも住んでいるということである。でも犬は犯行時はいったい何をしていたのだろうか、その飼い主である主人のゴルフセットもどういったものなのだろう。つまりここで推理すると、犯人はあのゴルフ王国であるスコットランド人であり、この街の外国人街の人間であると確信できるし、部屋の押し入れのアルミのスーツケースもドイツ製の強固なものだと断定することができる。
その犯行日が平日だったということは無職であり、ゴルフ練習場に通っている人間だと言う可能性が強くなってくる。当の奥さんは、セーターを集めるのが趣味で、チリ製のカラフルなセーターが玄関に飾ってあったらしい。クラブというとアメリカ製のものが多いが、アイアンは日本製を選んでいるユーザーが多いのは知っていたのだろうかと思わされる主人の家の現場のTシャツは、聞くところによると日本製とのことだった。そんなふうにして私はその犯人像を、主人の趣味に近い人物だとぼんやりと睨んだ。主人は毎週日曜日にゴルフの打ちっぱなしに行っていたというから、熟練なので、一般ユーザー的なセットの選び方をしている可能性が出てきた。
…屋台の多くはタコ焼き屋だというけれど、イカも最近は屋台では多く見かけるようになってきたし、ささいな奥さんの楽しみである壁のセーターの飾り付けの方法は壁にピンで止めるとか、そういった方法なのかもしれない。毎週日曜日になると公園には出し物が行われ、屋台が駅に向かう通りづたいにズラッと黄色い軒をつらねた。当の主人はよく飲酒していなかったのかどうかを考えたが、海外趣味があるということなので、その可能性はとても強いし、主人はことさら海外に関する趣味が豊富で、ことさらゴルフには興味を注いでいたということだ。恐らく冷蔵庫を開ければその中にはハイネケンなどの色々なドイツビールもあるだろうし、バドワイザーやギネスなんかも恐らくたくさんあることだろう。たぶんイカ焼きは酒に良く合うという理由だけで売れているのであろう…