終りの惑星
Akari Chika

苦しみの海に舟を浮かべている

あまった人生
わたしは人より多く
時間を与えられたんだろうか

忘れたくない
ここが好きだった理由
ここに居てくれと頼まれたからなのだった


足跡
もう会えなくなるから
もっと会いたかった

最終着駅
ふたり寄り添うように
次に住む家を探していた

大きな窓から沈みゆく惑星が見える
手作りのスープはやけに温かくて
オニオンの香りの
彼方に漂った

証しが欲しくて
証しが欲しくて
握り合う手の隙間に風が入り込んでも
ふっと
消えてしまう真っ平らな炎の甘み

砂浜に敷いた毛布
こんなバカンスも最後だろうかと
どちらも口にしなかったが
鉄色の波が打ち寄せて
くじらの光沢に腹の底をなぞらえた


喋らなければならないなんて
誰も言わないけど
沈黙が怖い
太陽の半分は崩れ
果汁を搾られたオレンジみたいだ

狼は
星のの砂漠を
駆ける
キャラバンの隣を
訳もなく延々と走り続けている

膠着した
きもち
時計のない営みの中で本をめくる音だけが時のようだった

与えられた
なんて有り得るのか
命は
与えられた
ものなのか
思案する間にも
茶葉は熱に触れて
全力でその身を開こうとしている

浸し
浸し
水仙を黄昏の水に浸して
美しいピクルスを作ろう

あまった力
あまった愛を
ふたりで
缶詰に詰めて
最後の夜に
楽しもうと思うんだ

質素なディナーみたいにね

枯木の向こうで大きな惑星が沈む
わたしたちは
不安な顔を隠して
何事もなかったかのように

明日何する?
なんて
昔から続けてきた会話を
繰り返す

誰かこの舟から助け出してくれたら
もっと正直になれるのに
わたしたちが立つ大地の地盤は日に日に脆くなっていく

そうだ
明日は
天窓に溜まった雨水の下で






自由詩 終りの惑星 Copyright Akari Chika 2010-10-16 01:21:19
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