Porter

伯父は
酒に酔うといつも僕を責めたて

僕も内心で怒りながらそれらを無視し続けた

伯父は僕の生き方が気に食わなかったし
僕が内気で口数の少ないことが更に腹を立てた

あるとき伯父は
おまえの根性を試してやる、と僕を打ち

僕も我慢が出来ずに伯父の腹を力任せに蹴った

伯父はそれでしゃがみ込み
おまえはもっと男らしくなれるのにと言った

でもそれは僕が必要としないものだった

多くの気弱な人々がそうであるように
伯父もまた悲しみに直面する度に酒に逃げ
誰かれ構わず悪口を言い
周囲を辛辣に攻撃した

母とその兄弟は伯父をかばっていたが
同時にその奔放さに手を焼いてもいた

伯父は敏感にそれを感じとって
結局は相容れないまま孤独になっていった
誰の忠告にさえ耳を貸さなかった

年に一度の秋祭りの日だけは子供のようにはしゃぎ
陽気な酒を飲んだが

やがて癌が伯父の声帯を奪い
伯父は言葉を失った

歯痒さを抱えながら感情を文字で表し

身体の具合が悪くなっても娘を除いて誰にも会いたがらず
秋祭りを窓から眺めた

病室のドアが開いて
僕が中に入ると
伯父は眠ったまま小さく胸を上下させていた

僕は消毒液の染み込んだ手で伯父の手に触れ
耳元へマスク越しに名前を呼んだ

僕を罵った口には綿が詰められ
もう僕を責めることもしなかった

点滴で膨れた身体には
幾つもの管が通され
時計の針のような心音だけが耳に響いていた

僕がしばらく伯父を眺めていると
看護士の一人が声をかけた

息子さんですか、お父さんは頑張っておられますよ

いえ僕は甥です、と答え
伯父の腕を両手でしっかりと握った

病室を出ると誰かが言った

今日はお祭りだから
伯父はさぞ楽しみにしていただろう、と

僕はタクシーに乗り
祭りが終わって町が静かになる頃に
伯父は旅立ってしまうんだろうと思った

そしていつまでも
力任せに伯父の腹を蹴ったことを悔やんでいた


自由詩Copyright Porter 2010-10-16 00:24:10
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