合作「星たちの邂逅」
瑠王





君はどこに行っていたのと
神話が問いかける
ここまで
ずいぶんと時間をかけて
きたのに
ほんのちょっとの不在で
だいなしにしたね、と

星が
夜なので
産卵している

産み落とされた光は
熱も
悲しみも持たず
それどころか
どんな色合いもないので
この体に
どんどんと
浸透していく

体の中の熱が
反比例して
上がっていく

風が
舞い降りてくる
空洞の
中にいるときのように
上から
上から
強く吹き降りてくる

どうして?
早く
早く

子供の
聞き分けのない声で
せがむのは
誰?
神話だけが
生き残り
人はみんな
消えてしまったの?

いいえ
不在だったのは
君のほうです
君は不在を体の中に取り込んで
眠っていたよ
そのあいだに
不在は体中を巡って
君の皮膚に
君の呼吸に
しみこんでいったよ
だから君は今も
ほんのちょっと不在で
それでいて
ここにいて
存在をアピールしている

要するに
眠りすぎて
夜に目が覚めてしまった
子供のようなものさ
君は体中が
熱くて
血が
動いている
脳が
興奮して
起きていたくてたまらない
川を想像してごらん
穏やかな川を
それが郊外を流れ
ありふれた日常が
交わる
そんな状態を
考えてごらんよ
落ち着いてきただろう?

星が
夜なのに
遠のいていく

夜は
夜としてそこにあるのに
時間とは
対抗できない
固定された空間は
いつも時間に押しやられ
それは後ろ後ろへと
かすんでいく
夜は
夜として
こんなに
死んでいるのに
それは
永遠では
ないのだ
(死さえも、時間は、費やしていく)

気がついた
気がついたら
ヘッドライトの
洪水にいた
飲み込まれそうで
眩暈がして
ハンドルを
少し切って
ふらふらと
走った
人気のない駅につく頃には
すべての星が
消えているだろう

真島正人

* * *

女神の不在によって
もたらされた季節の
鐘の音ひびく夜空へと
七人の娘達は去ってゆく
それみな雨となり落つる日に
私が口をつぐみ
ポプラ並木の春は来る

私の代価
薔薇ひとつ、紙に包んで放り込む
ゲヘナの炎の篝火へ

山崎尊

* * *

光る翠色の孔雀
雲に立ち
眠ったまま羽根をひろげる
痩せこけた頬に風が起こって
(またたき)
天河の向こうへ星座が遠ざかっていく

逸れた星がひとつふたつ

青い女神の化身
飾り羽は虹に変わり
空が深い藍に染まっていく
長衣の裾をつかんでかがみこむ
(ささやき)
耳元にたくらみのくちびるを
寄せる

迷える詩がひとつふたつ

星は尽きる瞬間まで光を残して
風の中を闇夜にまぎれ
忘れ去られたあとでさえ
(かがやき)
細い銀の糸でつながっている

孔雀は眠りつづけている

音樂めぐみ

* * *

瞼の裏で
朱い残光がはじけて
空洞に微かな温もりが巡り始める
星の暦に綴られた透明のテクスト
8μmの宇宙の備忘録を読みあげる
この声がいつの日か
遠い冬に眠る
貴方へ届くように

環礁に囲まれた宇宙に降り立つ
欠けた最期を飾る蒼いメシア
河岸ですれ違う瞬間
交差した瞳に
一千一秒を数えて閉じ込める
貴方の溢れる水面に
私の灼けた鱗が触れて
瞬きのように揺れた葉の間から
落ちて宿る星影

枯れ枝のような足で登った
丘の上で二人きり
朱と蒼の星を指先で繋ぐ
砂上の天蓋に記す約束
このすくむ足を導いて
十月十日の後の迷い子を導いて
同じ一つ穴から生まれて
消えてゆく
光と闇を包んで

小さな宇宙に降り注ぐ88の約束を
百億の星たちが見護る
貴方の名前が朱星とともに昇る夜まで
「Καληνυχτα」
想いは閉じられ眠るテクスト
いつの日か
遠い春に目覚める
貴方に読み解いて欲しい

高梁サトル

* * *

七色の星雲が共鳴をはじめ
無風の中で消えてゆく感情

黒になる前のわずかな藍色の世界で
平たく重なる岩に色を見つけた
自分の音階に耳を傾け
鳴り止まぬ通奏低音に腰掛ければ
そこにいない他者の悲しみを読む事ができる
<大きく裂ける七色の岩たち>
ここが海だったのか
温度の揺らぐ海だったのか

Xiao




自由詩 合作「星たちの邂逅」 Copyright 瑠王 2010-10-15 13:40:44
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