海の見える家から
番田 

男の声は人に聞こえない響きで
褐色の空気が いつもあるだけ
暮れ行く夜明け前の時の中で
ただ 流れる 女の影に群青色を見る


一つを手中にしようとする
そこにゆらめく湖に 何一つ無い
一つの色彩を見る
たぶん一つの流れる時に
意識の触れようとする 一つに
そこに 流れる砂粒の 何一つ無い
一つの形状を ぼんやりとただ見ている
情景の一つを


形は 私には見えないものであり
透明な空間があるだけだ
動物は影に模様を見ている
流れる灰の その内側に
見えない 流れる大気は
いつも気流があるだけ
流れる そして 夜明け前の世界で
私は影の息吹を知る


無限の形を手にしようとする
白色に 印に 色味に 一つに
形に 中に 骨に 支柱に
その 丸みに ボールに 手応えに へこみに
ゴムの一つを 手は掴もうとする
そこに立っている 体は視界にかけらも無い
色彩の物質を掌に見ようとしている
私は 緑色の 木々たちの流れに


石ころは なでている私には黒く 何も見えないのだ
私の灰色の雨雲が実体となり 頭上にある
人間は木々の影に幾重もの彩りの模様を見たのだ
流れる 銀色の岩の表面や 肌の内側に
核質は 目の近くに見えないものだった


空間の色の感覚があるだけである
手は影に散らばりを見る
土を流れる ゴミくずの包むメモ書きで
ああ 君の詩の走り書きがあると
夢見る ページの表面に きっと
私は声の赤い唇を見る




自由詩 海の見える家から Copyright 番田  2010-10-15 02:18:13
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