インクルード
乾 加津也

星もなく
ふあんに耐えかね
肩にくいこむ夜をおろすと
知らない山のほうから遠吠えがきこえる
呼んでいる
/存在(たいしょう)ではない たしかに
よばれている
脳天から電光石火よびさまされた
おもいだした

月の燃えるあたり
背中をむけといわれ 渡された
つめたい消火器がバトンのように
便座のように
「赤」を土葬した
焼かず
晒さず
重ねず
触れず
いたいたしくこちらを見ないように目を刺しとおして
たくらみを否認して
飢えた土塊に髄までしゃぶらせようと

膝がない
(塹壕だ)
穴をのぞけない
漁り火の眼光だあわてて橙にして
生き血をかくす
大変なことになってしまった
親よりも
子よりも
生死よりも
愛よりも
ふかく赤を埋めてしまった
暴動 平和
凌辱 尊厳よりも
あかあかしい滓に巣食われてしまった
贖罪よりも
冒涜よりも
(岸から送電線 横に 横に)
侵食を食ってしまったのだ/壁に/壁に/壁インクルード 力ずくで

遠吠えが十匹いよいよ近づいてくる
鳴りやまず封も呪文もかき消された
にどと落ちてこないように
にどと落ちてゆかないように
そこにあった手で
消火器で
葬り 便器に流して
これでもか
これでもか

ああ もうだれも追いつけない
なのに血しかない/色のない
号令のようだ ああ
直立猿人のようだ ああ
人工(にんく)が人称を殺しにきた ああ

わたしは夜を
わたしは漁り火を
わたしは消火器を
わたしは遠吠えを
わたしは

おろしてはいけない
赤には
/いない
のぼらない太陽にいけない
おーい おーい

垣根をこえても
胸にうずもれても
おろしてはいけない そうだ
/おろしてはいけない
葬った
すべて


自由詩 インクルード Copyright 乾 加津也 2010-10-15 00:12:07
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