ひとつ ほとり
木立 悟






風のなかを
風になれない音がすぎる
到かない光が
夜を見ている


凍った川のむこう
動かない夜
音のいちばん熱いところ
炎の奥に鳴り響くもの


姿のうしろに姿が織られ
曇へ曇へ遠のいてゆく
雨を呼ぶ声
応える声


光が光に振られ
まばゆい跡なく 次のものとなり
のどの痛み 目覚め 目覚め
あきらめとともに 肌色 目覚め


枝のひとつひとつが夜になり
夜空の明るさを隠している
細やかな生と死が
地と水を照らしている


明かりの背から
闇のふくらみから少し離れる
わずかな雨音
平らな音


新たな緑を呑む
他のひとしずくを残し
ふるえは消える
瞬でさえなく それは消える


視界のかたち 二重のかたち
針の先の野
羽のある生きものが
みな歩いてわたる野


鉛の筆と鉛の槍
蜘蛛も蚊もひとしく降りつもり
やわらかさに爪を立てる
ひとしさにひそやかに 爪を立てる


尖り分かれる辺のゆく先
伸びることなく延びつづけ
そのものがそのままで在る暗がりを
そのままにそのままに受け入れてゆく


























自由詩 ひとつ ほとり Copyright 木立 悟 2010-10-14 09:48:57
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