新宿
吉岡ペペロ

新宿はひとをたいせつにしていなかった

ひとの多さがそう感じさせるのか

いや、ひとのながれがそう感じさせていた

焼き鳥屋さんのよこの珈琲専門店に

コーヒーメーカーの部品を買いにきていた

今朝はじめて出会ったひとに

ぼくは頼まれたのだった

そのひとは

僕のたいせつなひとのたいせつなひとだった

八十にちかいからだは時計でいうと

二時半をさしていた

目をわるくしているけれど

腕のたしかな整体師さんらしかった

僕のたいせつなひとは

はじめて挨拶しているふたりに

なにか緊張しているようだった

勝手知ったるようすで掃除機をかけたり

体育座りをしたり

そわそわと整体師さんのまわりを動いていた

僕はそれを愛しいと思っていた

整体師さんもそう思っていた

僕も整体師さんもそのことは口に出さなかった

新宿はひとをたいせつにしていなかった

ひとの多さがそう感じさせるのか

いや、ひとのながれがそう感じさせていた

僕のたいせつなひとのたいせつなひとを

この街にひとりで来させるようなことだけは

したくない、新宿のひとごみのなかで

僕はかなり真剣にそんなことを考えていた





自由詩 新宿 Copyright 吉岡ペペロ 2010-10-14 00:12:02
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