長編詩 陰茎 (審美学的観察と考察の試み)
salco

 フォルム

カント・フロイト・エピキュロス
それは遅れてやって来る口唇期
いや十数年を隔てて再発現する恣意的口唇期
恋人達はみなジークムント・フロイトの愛弟子
今や心理学では眉を吊り上げられるだけの、
所有欲とギリシャ神話のオブセッションに幻惑されて
突起・陥入の情痴と考察に明け暮れる学究の徒
粘膜上皮と神経伝達の薔薇色の虜
つまり、アホアホ
要は、ウハウハのアヘアヘ
ゴ立派 = 彼の次に好き
付属物 = 彼と同じぐらい好き
お道具 = 時々彼本人より好き
理由 = 素直で従順だから/面倒臭い要求をして来ない
意義 = 奉仕と自足の渾然一体/女の玩具 男の武器

重厚で謹厳な展示作品#9の
鬱陶しいまでの側面装飾
でも全体像はゴシックと言うよりバロック
精緻な曲線と絶妙のカーヴィング
ネイチャー・メイドのマジック・マッシュルーム
太くて長ーい
暗くて高ーい
東京都庁舎より高い
ランドマークタワーよりは低い
空しく天空を狙い、万有引力に挑む健気な愚物
そのかみ地対空ミサイル
今やレーピンの船曳き

こんな風に生殖器を彫塑するなんて
自然は不思議
進化は不可思議
身体との比率が霊長類の中で桁外れに大きいのは
二足歩行と大脳新皮質の発達とに関係がある
余暇と想像力の相関にも密接な関係がある
手が空いたからいじり過ぎ?
面白がって女も引っぱり過ぎ? 
およそ成獣ではおさる系以外
自慰に耽溺する野生動物はいない
発情期の撤廃には多分、
快感の印象を維持するだけの記憶力
オカズを思い描くだけの知力を要するのだ
それに草食動物は捕食者に、
肉食獣は飢餓に脅かされるだけの生だから
気を抜いたり気を遣る暇がない
人間だって、
警察や殺し屋に追われながらそんなことはしない
それともたまたま?
ここぶつけるとお鈴のエフェクト音がして
隕石の気持がわかるんだってね
メイジャー・トム

メンデルは聖職者だったから
生殖器には関心がなかったのか
だからフライ*の考察に留めた? 
ダーウィンは奥さんいたの? 子供つくった? 
ガラパゴス・フィンチを研究の傍ら一人エッチした? 
男の欲望は、
地球の円周をフビライやコロンブスみたいに
駆けずり回って来たというのに 
学者は水辺にしゃがんで沈思黙考? 
ちんこモッコリ
思惟
アインシュタインの偉大な脳は、
それで宇宙の果てまで行った
オッペンハイマーの偉大な脳は、
それで神の左手を開発して生涯心を焼かれた
優れた神経細胞の連鎖反応がやまない
忙しない人達
なぜ先駆者として人類の進歩の矢面に立って
罪悪感を負わなければならないの? 
一個の微細な頭でっかちに過ぎないくせに
だって正義と違って人類の悪は
常に、常に、横並びの連帯責任だ 
なぜなら正義の定義が大義一つでコロコロ変わる
真理なんてどこにあるのか
解釈一つで、見える世界はいかようにも変わる
それを防げた例はない

私は動きたくないな、一歩も
進みたくない
何らの毀誉褒貶にも関わりたくない
彼のお腹に頭を乗せて、
目の前の物を眺めるのがいい
アマゾンの奥地で暮らすのがいい
それで、夕食後は最も手近な芸術鑑賞
だって夜は暗いから、することないじゃない? 
文明は力から 文化は暇から発祥する
例えば現代、
あるべき幸福に至る手段を
千手観音の如く授けられた娘が長じて
座標軸に望む景色とは何か
いいとこに就職? エリートとの結婚? 
高学歴・高収入の矜持と退屈? 
それは生活の分析と論評、社会学的考察の論旨ではなく、
やっぱり愛する男の巨大なペニスじゃないの?
茶髪のヤンママとポン女トン女出の女子は一体
何が違うんですかね、おかーサマおとーサマ
服の好みだけでしょ?



 先端部

でも不思議
柔和な曲線と薄い皮膚に包まれた先端の愛嬌
マシュマロみたいな柔らかさ
こんなさらさらの薄い皮膚って他にある? 
皮膚じゃないみたい
片栗粉か珪素ガラスの粉末を
直にコーティングしてあるみたい
寧ろ女性的と言うべきだ
だって、だいたい果実は女性的じゃない? 
蹴り上げられたらイチコロの、
骨もない器官が男性の象徴だと思うのは
不自然じゃない? 
寧ろ、
節くれ立った厚い手や血管の浮いた肩と腕、
逆三角形の広い背中が男性だと思う
毛むくじゃらで鉄みたいに堅い脚も
それから地熱の圧みたいな代謝
あとは海鳴りみたいな声
彼は船
時に私を運ぶ船だ
優しくて鬱陶しい、骨太で頼りない

アントニオ・ガウディの屹立の象徴美も
とても女性的だ 
内部に子宮を展開する混沌の森林だから? 
それは祀られるイエスが釈尊と同じく
母性的な神だからだろう
もしかしたらサグラダ・ファミリアは教会建築史上、
キリスト教の根幹思想に最も沿った設計なのかも知れない
赦し
回帰
現実的な志向性とは別に、人類の普遍的理想は
ミサイルの尖端ではなく慰藉の光だろう
教会の尖塔が象徴するのも
攻撃ではなく祈りのベクトルだ
シナゴーグもモスクも、パゴタも五重塔の法輪も
寺院は皆そう
その一義が
疎通と加護の希求でなければならないからだ
トップダウンへの絶対服従を誓いつつ、
その交換条件として
魂とやらの救済を要請する商取引
実際には人間社会の地平を席捲する権勢欲と
支配欲との両義であるにせよ
一大矛盾の渾然一体は、
つまりどちらも本音の綾なす二重螺旋

恩寵を乞い忠誠を誓って集うだけなら、
宗教施設は天幕やコロッセオであっても良かった
どんな宗教、宗派にも位階が置かれ、
司祭導師に管理され、更なる長が頂点に鎮座する
牧師、僧正、大宮司、主席ラビ、イマーム、教皇
有象無象の教祖も含め
あらゆる団体は統率者の権威の下
その敷いた秩序と機関的威厳あってこそ機能を続ける
政財界のトップも宗教のトップも
実質何ら変わるところはない
現世利益に満足し切って老衰に至り
温順に次世代へと継承される王権
そういう手合が設計図を引かせて来たから
あんな尖塔がある
巨大化しカテドラルになる
これも永劫解脱なき、人間の業だ
権威の露出狂
なのに見よ、この小さな穴
かわいそうに、尿道一本
出すしか能がない
女の指もファンタジーも入らない
番茶とカルピスしか出せない人だ
「何のお構いもできませんで…」
一蓮托生、飛ばす夢も
格納がなければ何の意味もなさない
お気の毒



      
フライ … ハエ。又はズボンの前開き部


自由詩 長編詩 陰茎 (審美学的観察と考察の試み) Copyright salco 2010-10-09 21:58:32
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