海峡
たもつ

 
 
理髪店に備え付けられた
平方根の中で眠る犬
その耳に形のようなものがある
店主はただ黙々と
軟水で精製されたハサミを用いて
僕の髪を切り分けていく
その間、僕は不慣れな手つきで
操舵輪を操らなければならない
海峡の一番狭い場所にさしかかる
お願いしますよ
店主がつぶやく
切られた髪が足元にしんしんと降り積もる
やがて窓の外へと風に運ばれていく
何かと間違えた海鳥が
それらを追いかけて飛ぶ
順番待ちをしている男の人が
いくつものセミの抜け殻を
粉上になるまで握りつぶしている
ごりごりとした音が
直接頭の中に響き始める
ハサミは頭蓋骨に到達したらしい
お願いしますよ
店主が再びつぶやく
世の中にはこのようにして
生計を立てている人もいるのだ
 
 


自由詩 海峡 Copyright たもつ 2010-10-09 21:06:16
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