海亀
天野茂典

  


  海亀の産卵に
  つきあったことはないが
  砂に穴を掘って
  跨り
  カプセルのような卵を
  産み落としている
  映像はみたことがある
  海から這い上がって
  浜へ
  潮鳴りを遠ざけながら
  産卵する海亀の目からは
  涙が毀れ
  苦しそうにも
  喜びのようにもみえる
  自然の掟といいながら
  ひどく残酷な姿にもみえるのだ

  新しいいのちを生み出すということは
  涙を流すことなのか?
  
  自分の胎を痛めながら
  管をとおして外界へひりだすということなのか

  孵化した海亀が蝿のように
  いっせいはいだして海へ
  波打ち際へ
  帰ってゆく姿は感動的である
  
  母の胎は宇宙だ
  いくつもの隠しだまをもっている
  月もそのひとつである

  海亀の産卵から紡がれるおおくの詩たち
  苦しみの
  喜びの
  涙をながしながら
  やはり海へ帰ってゆくのだ
  母なる海へ 月夜はそれを照らすこともない

  極めて孤独な分娩領域にひきこもって
  いまでも潮のいい匂いがする 海亀よ



         2004・10・21


自由詩 海亀 Copyright 天野茂典 2004-10-21 05:35:21
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