生まれる所
砂木

ただいま と思いながら両手を下に広げる
林檎畑は収穫のための作業で忙しい
陽があたるように実の回りの葉を取るため
晴天の日曜日 実家に帰る

草を分ける土の道 人の歩いた道
風にそれる 緑の紡ぎだす時
じいちゃん ばあちゃん
幼い頃 はさまれて真ん中で眠った
時折 末の娘の名前と私を間違えた
違うよ 幼い私の抗議に苦笑していた
暗闇の中でも恐くなかった

祖父母が過ぎ 時が過ぎ 年をとり
林檎畑に手伝いに集まる顔ぶれが
少しづついなくなったけれど
私が 今はまだいる 私が いる

ただいま おかえり
息を一杯吸い込んで 呼吸に
思い出の時々を たきつける

父母と共に 林檎の木にはしごをたて登り
陽があたるように 赤く熟すように
もう出ている 来年の花芽を摘まないように
実にかかる葉をのぞいたら くいっと回して
枝の痕の青い所にも陽があたるようにする

日暮れがせまり 畑が薄暗くなりかかると
父母が言う
あの明るい方へ行け
木々の中でも 風通りの良い方へ
空の見える方へ

おかえり なさい ただ いま
捨てられないもののために
実を 陽に あてる
両手を添えて



自由詩 生まれる所 Copyright 砂木 2010-10-03 21:30:21
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