五歳の風船のいぬ
さだあいか (サダアイカ (aika))

五歳が
小さな手で拍手すると
泡がわれる音で
リズムがはじけて
色とりどりの
風船のいぬが連なって走り出す

お子さまランチのイギリスの旗は
ご飯の上で頂上を知らせ
倒れる直前にその脇を
風船のいぬたちが高速で走り抜けると
笑うようにはためくイギリス

羽ばたいたイギリスは
旗も頂上も飛び越えて
トーマス!
トーマス!
と叫んで叫んで
散り散りに千切れて
の紙吹雪になった

風船のいぬに乗った
わたしたちは
紙吹雪の中をつきぬけて
花やしきのローラーコースターに乗ってるみたい
キャー

紙吹雪は噴水で虹にまみれ
いつしか花吹雪になって
満開の桜の下
ほら
ここは臨月のお腹で
あなたが蹴った場所だ

0歳がベビーカーで通った
1歳がことこととゼンマイ仕掛けのように歩き
しりもち
2歳がバス停にしゃがんで葉っぱをひろう
3歳が怖がって抱っこをせがむ
4歳が砂だらけで走り回って笑って笑って
5歳

五歳は?
あ、手を繋いでいたんだった
ほっぺたにごはんつぶをつけていて
にっこりとしたので
ゆっくりと抱きしめる
抱きしめるとしっとりと温かい
五歳が右手に持ったスプーンを落とし
床に落ちるよりも早く
驚くような音で
空間を切り裂き
風船のいぬは割れた



自由詩 五歳の風船のいぬ Copyright さだあいか (サダアイカ (aika)) 2010-09-25 10:50:51
notebook Home 戻る