バ モ ク タ ト コ
くゆら


あの人に近づきたくて


自分の描いた絵を渡した



少し体を後ろに引いて
ビックリした様子で


目はきょとんとしていた


「絵描いてるんで貰ってください!」

わたしは自分の要件だけ告げて

走った



でもちゃんと「ありがとう」をもらいました



ただ嬉しくて






マイクでゴンッと頭を叩いて
歌い出す


長い髪が揺れる


裸にタキシード


胸にあるバッテンの傷も素敵



わたしを指したか解らんが
人差し指がまっすぐこっちを指して



何かを叫んだ



人を押しのけて前へ行ったが



せぇたかのっぽが邪魔で見えん




人の肩と肩



頭と頭の間から


少し切れた
あの人をわたしは見た




帰り際



ペンキにまみれて絵を描くあの人が



わたしは黙って三角座りし

食い入るように

最後まで見ていた




あの人はまた
「ありがとう」と言った



わたしは走って
握手を求めた



わたしの右手を震えた右手で
ギュッとして


あの人は何か言いました



その時に聞こえた言葉は

きっとわたしの聞き間違え



でも右手に付いたペンキは本物で

温もりも本物で


ペンキ付きのチラシも本物


わたしに言った「ありがとう」も本物




もうすぐきっと


音楽や映画や芸術で



今よりずっと大きくなって



届かない人になってしまう気がする





だから




遠回りしても



道草くっても



迷っても



あの人に




絶対に追い付こうと決めました






自由詩 バ モ ク タ ト コ Copyright くゆら 2010-09-23 20:59:26
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