邪悪な双子
真島正人


邪悪な双子が
僕の部屋にやってきて言った
「ねぇワルツを踊りましょうよ」
かわいらしいスカートの裾をもちあげ
優雅にお辞儀
僕は
二人とワルツを踊った
邪悪な双子は
にこにこと笑い
数分のうちに
溶けてしまった
骨だけが
部屋の中に残った
翌日は燃えないゴミの日だったので
透明なビニール袋に入れて捨てようとすると
隣の部屋の奥さんが僕を叱った
「あのね、そういうのはね、ちゃんと供養してあげるべきなのよ」
ウィンクまでして
「いくら邪悪な双子だといってもね」
僕は反省して
二人の骨を
テーブルの真ん中に置いた
時計の針が
音を立てて笑い
水槽の中では
熱帯魚が窒息していた
唐突にレコードで
バッハが聴きたくなった

僕はテーブルの上の骨を
右手と左手に持ち
それらを擦り合わせて
ちょっとした音を奏で
それから
水槽の中に沈めた
すると骨は
ぼぉうっと光り
水槽の中程で居心地が悪そうに泳いだ

つけっぱなしのテレビで
哲学者が
悲しそうな目をしてしゃべっているのが聴こえた
「今の世界を……」

今の世界をもしも、再整理する
あるべきものをあるべき場所に戻し
システムを
再構築する
それは今の世界ではもう
不可能なことなのかもしれません
たとえ人々に様々な
あるべき場所から離れてしまった
あるいは逆転してしまった、
コミュニケ−ション不可の状態に陥ってしまった、
いびつになったものが見えたとしても
それを仲介する物質の糸が見えたとしても
人々は
それを差し戻すための
努力を忘れてしまっている
のではないでしょうか
そんな気がしてならないのです
言い方が、
悪ければ改めます
それは
努力の放棄というよりは
忘却
といったほうが
良いのかもしれません……



邪悪な双子だった骨は
ぼんやりとした輝きを
続けながら水槽を浮遊し
僕はしばらくそこに意思の宿りを感じていたのだが
やがて
意思など関係がないはないのだと
思った


自由詩 邪悪な双子 Copyright 真島正人 2010-09-21 09:04:49
notebook Home