疾走せよ!鱶
天野茂典

 


  桜の花びらが痛い
  速度で
  桜吹雪のなかを私は走った
  青い湖を抜け
  アスファルトの細道を
  オフロードバイク
  のアクセル吹かし
  (鱶ではないが
  私は空気に噛みついた
  四月は残酷な季節だ
  とT・S・エリオットは戦後
  『荒地』で書いたが
  桜の花びらも残酷なのだ
  山の斜面は新緑に染まり
  私の魂までも萌えていた
  桜の花びらは痛い
  びしっと撃つのだ
  撃たれるのだ
  私は拳銃でヘルメットの下の
  顔面を 焼かれるのだ
  記憶にはなかったことも
  起こりうる
  ひとつの記憶が塗りかえられる
  書記は痛覚として記すだろう
  新しいページに
  新しいインクで
  蛇のように

  桜の花びらが痛い
  荒地では残酷なタコメーター
  がふり切れるのだ
  疾走せよ!  疾走せよ!
  桜ふぶき   桜ふぶき
  タトゥーのように刻まれろ
  封印された古代文字のように
  桜の花びらが痛い

  速度よ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


  

               2004・10・19


自由詩 疾走せよ!鱶 Copyright 天野茂典 2004-10-19 18:20:11
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