夜があけたら
天野茂典

 

  悲しいかいと尋ねたら
  悲しくなんかないと答える
  なぎさではイソシギが波打ち際を歩いている
  ペルーの鳥だ
  ぼくが見た映画のなかで一番なのは
  シベールの日曜日
  村上龍もあげていたっけ
  悲しいかい
  悲しくなんてないや
  旭がのぼればだれだって悲しみを忘れることが
  できる
  死に至る病い*という道を生きている人間だから
  魂が傷つくのはあたりまえのこと
  ああ 季節よ
  城よ
  無傷な心がどこにあろう*
  とうたった詩人も20歳で詩を書くのをやめてしまった
  なるべく詩にならないことばをと考えながら
  どうしても美化してしまうことばの媚薬
  悲しいかい
  悲しくなんかないや
  そういってもらったほうが助かる
  孤独は甘いものなのだ
  パンドラの箱のなかで過ごしていればそれでいい
  だれも開けてはならないんだ
  だから宝のようにそっとしていられるわけだ
  電話も
  メールも通じないましてや友達なんかこやしない
  秘密の部屋に籠もるのだ
  人間が恋しくなるのはそんなときだ
  愛しくて堪らなくなる
  友達がほしくなる
  箱を開けて外へ飛び出したくなるものなのだ
  人は社会的動物なのだ
  コミュニケーションがほしくなるのだ
  狼少年でもないかぎり
  愛するものが欲しくなるのだ
  美しい映画には美しい愛がある
  美しい人間には美しい愛がある
  愛は自分で探してくるものだ
  誰も探してなんかくれやしない
  悲しいかい
  悲しくなんかありゃしないさ
  強がることも必要だ
  でも純になることのほうがもっと大切だ
  こころがぽかぽかするように
  干された藁屑のベッドに寝るように
  愛をもぎ取りに行くことがいまの君の使命なんだ

  さあ夜が明けたら一番電車に乗って1000円札一枚出して
  行けるとこまで電車に乗って来い

  夜があけたら★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



              *ケルケゴール
              *アルチュール・ランボー

                  2004・10・18


短歌 夜があけたら Copyright 天野茂典 2004-10-18 06:34:02
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