生身のものにはノイズが混じるものさ
ホロウ・シカエルボク
チェンバースは
やりかたってもんを
とても、よく
心得ている
それは
おれの寝床で
今日に
踏ん切りがつかない
おれの意識を
疾走させる
果てしないランニングの
さなかに
おれは
コルトレーンの背中を
見つめ
銃声を聞く
百年語り継がれる
アルバムを残せたら
魂は
報われるだろうか
おれは
そうは
思わない
誰だって
あともう一枚
あともうワンフレーズ
そこに
描きたいと
思うはずさ
おれはどういうわけか
詩を
書いているから
きっと
もう一行って
思うんだろうな
それを
おれの後悔だとは
思って
欲しくない
おれの死には
明日があるんだと
そんなふうに
考えて欲しい
おれは鼻を掻きながら
もう一行、のことを
考える
もう一行、必要だろうか
もう一行、書けるだろうか
書きたいときに
書きたいように?
はたして、やはり
答えは
出ない
出るわけがない
おれは
もう少し
生きるつもりでいる
まだ
筋肉はくたびれてないし
腹だって出てない
痛いところなんかないし
苦しくなることもない
ただ少し
甲状腺が
他人より
腫れているだけで
もしかしたら
一行なんてもんは
いま書いている
こんなことの
すべて、かもしれない
いつかその日が来たとき、きっと
バカ長い一行になるのだ、ハハー
おれはバカ笑いする
コルトレーンは一回転する
一回転しても
デスクトップ・コンピューターの
中で
また
いちから
はじめる
おれが
なにもしなくても
おれは
ターンテーブルが欲しい、と考える
A面と
B面の
すべてが終わったとき
もう一度
聴きたいと思える時間
あれこそが
音楽と言えるのだ
ほんとうは…
えい、くそッ
おまえにだって
もしかしたら判ることだろうさ
こいつは
歳のせいなんてもんじゃなくて
「鳴る」ってことの
話なんだ
空気が振動して
身体がそれを受け止めるって
話なんだ
おれは
間近に迫りつつある
朗読会のことを
考える
おれは振動したい
そして
それを
受け止めてもらいたい
そんなことをして
なんになるのか、とか
そもそも客は
やってくるのか、とか
そんなことは
どうでもかまわないことで
いや
そりゃあ
いいにこしたこたぁないけどさ
おれの振動は
おれにしか起こせない
そのことを
どうすれば
判ってもらえるだろう?
そこだけが重要なことで
おれは
はたして
もう一度
回したいと思われるような
レコードに
なることが出来るだろうかと
おれは
ターンテーブルになりたい
振動を受け止めて
きちんと
送り出したい
もちろん
レコードでもいいが
針で
傷を
つけられそうで
怖いんだ
よな